北海道大学公共政策大学院 学生ブログ

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【本紹介】『日本国憲法の普遍と特異』

こんにちは!18期広報のKです!

いつもの通り本紹介です。

 

 突然ですが皆さん、今年の5/3は何をしていらっしゃいましたか?GWの只中でしたが、満喫できましたでしょうか。

 

なぜこんな出だしで書き始めたかというと、5/3とは憲法記念日なのです。日本国民にとって、ましてや公共政策学徒にとっては、言うまでもなく重要な日であると言えます。

当然この日、私はHOPSの同期や新しく入った後輩達とあるべき日本国憲法の姿について滔々と語り合っていました。(これは嘘で、この日筆者は春の陽気を感じながら有志らとBBQをしておりました。良い息抜きができました。)

 

 もうすでに過ぎてしまった日を引き合いに出すのは少し恐縮ではありますが、そんな今回紹介する本はこちら。

 

ケネス・盛・マッケルウェイン(2022)『日本国憲法の普遍と特異 その軌跡と定量的考察』千倉書房

 

 東京大学社会科学研究所教授のケネス・盛・マッケルウェイン先生の著作で、アジア・太平洋賞を受賞しています。

 

本書の目的は、18世紀以降に制定された世界の900以上の憲法がどのように変遷してきたかを定量的に検証し、その知見をもとに、日本国憲法の特異性を解明することにある。p.4

 

 日本国憲法は、上に添付した写真の帯にもある通り、制定から75年以上を経た今なお、一言一句改正されていません。対して世界各国の憲法は平均して5年に一度は改正がなされているらしく、それだけでもその特異性が伺えます。

 また、単語数に関しても、日本国憲法は4,998wordsだそうですが、これは世界で5番目に短いとのこと。そして日本国憲法の最大の特徴は、人権に関する規定率の高さと、統治機構に関する規定率の低さ(法律にその詳細を委ねている)ことだそうです。

 

 そして本書の興味深い点は、ともすれば解釈論に終始しかねない憲法の議論を、データを使って定量的に考察しているところにあります。具体的には、Comparative Constitutions Projectという、世界各国の憲法典のデータベースを用いております。こうしてみると、テキストデータ分析と憲法・法案といった政策に関係する文書というのは親和性が高いですね。研究のヒントにもなりそうです。

 

 憲法に関しては、かなり大きな論争が存在することは言うまでもありません。憲法9条、一票の格差、選挙規制、環境権・プライバシーなどの新しい権利、同性婚、さらには先のcovid-19でも話題に上がった緊急事態条項など、争点の幅広さと深さに関しては特筆すべきものがあります。そうしたやや党派による分断を招きかねない憲法というトピックに関して、非常に緻密で説得力のある議論が展開されている本書は、まさに自信を持っておすすめできる一冊です。筆者は、それなりに多くの学術書を読んできている自覚がありますが、ここまで完成度の高い書籍は久々だと感じました。

 

 本書の内容に関しては、深くここで書くことは致しませんし、憲法議論について私見を述べるようなこともしません。詳しくは、本書をご覧になってみてください。それでは、今日はこの辺りで。

 

追記:2023年11月13日

本書は、その年度に刊行された政治経済分野の書籍の中でも特に優れたものに贈られる、第44回「石橋湛山賞」を受賞したそうです。おめでとうございます。

 

文責・18期広報担当K