北海道大学公共政策大学院 学生ブログ

北海道大学公共政策大学院(HOPS)の院生が運営するブログ

余市エクスカーション報告

 

グローカル

 

皆さんは、この言葉をご存知だろうか。

グローカル」は、HOPSの理念の1つにもなっている造語である。

 

この言葉は、「グローバル」と「ローカル」という、一見すると正反対の言葉に思える言葉を掛け合わせたものだ。

グローバル社会の中で、地域社会も世界に目を向けてまちづくりを行う、地域社会でも海外から人や資本を呼び込むなどグローバル化が進む、世界標準化が進む一方で地域ごとの特性に合わせた政策やビジネスを行なっていくといった時に用いられる。

 

詳しくは、こちらの記事を参照してほしい。

hokudai-hops.hatenablog.com

 

地域おこしやまちづくりを行う中でも、グローバルな視点や考え方から離れることはできなくなりつつあるのだ。

 

グローカル」なまちづくりが始まっている町が、北海道にはいくつもある。

その中の1つが、「余市町」だ。

NHKの朝ドラ「マッサン」でも取り上げられた、ニッカウヰスキー創業の地でもある。

それだけでなく、果樹栽培や海産物などの特産品にも恵まれた町だ。

だが、そんな余市町も人口減少、高齢化の波が押し寄せる。

加えて、平均所得の低さなどの課題も抱える、いわゆる過疎地域と言われる町なのだ。

 

その余市町に、我々HOPSの教職員と学生が、グローバル・ガバナンス論の授業の一環としてエクスカーションに赴いた。

 

 

その模様をお伝えする。

 

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道中から望む日本海石狩湾

 

7月1日の昼、北大南門に集合した。

参加する学生はグローバルガバナンス論履修者のほか、希望者や体験入学者だ。

チャーターしたバスに乗り込み、余市町に向かう。

 

余市へは札樽道という高速道路を利用して向かうことになる。

以前までは小樽からは下道を利用しなければ向かうことができなかった。

だが、小樽JCTから余市まで高速道路が伸び、札幌からのアクセスが格段に良くなった。

1時間弱の道のりである。

今後は、海外からの観光客で賑わう倶知安方面にも高速が伸びる予定だ。

アクセスの改善によって町がどう変わるのか、楽しみである。

 

 

バスに揺られてしばらくすると、あっという間に余市に到着した。

到着時には生憎の雨。

ひとまず道の駅で休息を取ることになる。

 

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道の駅に併設された宇宙に関する博物館

 

近くにはニッカウヰスキーの工場もあって、観光地の中心のようだ。

 

ここから、第一の目的地である「フルーツシャトーよいち」という高齢者総合福祉施設に向かう。

いわゆる老人ホームであるが、以前は技能実習生をフィリピンから受け入れていたという。

近年では介護や家事労働などの親密圏に属する職業も国際化が進んでいるというが、その一例と言えるだろう。

特定技能制度が開始されたことを考えれば、学ぶべきことは多そうだ。

 

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施設内を見学する学生ら

最初に理事長からレクチャーを受け、その後に施設内を見学するという流れであった。

施設内は様々な施設が複合化していることもあり、あまりの広さに舌を巻いた。

 

理事長から実習生の受け入れた当時の状況などについて話を聞き、質疑応答の時間もあった。

やはり介護人材の不足は大きな課題であるようだ。

「よいち」では、まだ日本人のみの採用でも間に合うようだが、将来のことを考えて受け入れを決意したという。

受け入れに際しては、負担だけが重いというわけではなく、介護に取り組む姿勢などはかえって学ぶ部分も大きかったそうだ。

外国人材を受け入れる施設が増える中で、北海道の施設がどのように差別化を行なって、人材を集めるかが課題だと語った。

 

 

外国人材の受け入れを促進すべき、と言われるが、黙っていても人が来るというほど単純ではないようだ。

フィリピンなどの人材の送り出し国のニーズを捉えながら、人材を確保できる施設づくりが必要があるだろう。

 

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HOPS公式FaceBookより

 

施設内の見学が終わり、次の目的地へと出発する。

目指す場所は、余市町役場だ。

余市町役場では、齋藤啓輔町長からのレクチャーが予定されている。

 

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余市町役場

 

齋藤町長は、昨年に初当選を果たした30代の若手町長だ。

外務省から天塩町へ副町長として出向し、余市町長選に出馬したという、「異色」の経歴を持つ人物である。

天塩町時代には、しじみを使った特産品を有名シェフと共同開発、ライドシェア、グローバル教育など様々なプロジェクトを立ち上げたことで、話題になった。

今までの地域おこしの話題には現れなかったタイプの人物である。

 

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HOPS公式FaceBookより

 

齋藤町長からは、なぜ天塩への出向を決意したか、天塩での取り組み、北海道と余市の現状、これからの展望、世界に向けた特産品の戦略などを1時間以上もレクチャーして頂いた。

忙しい中で、これほど時間を割いて頂けることはあまりないだろう。

 

齋藤町長の話の中で、印象に残っている言葉がある。

 

「東京と競争条件を整えてもらわないと無理だと言われた」

 

北海道に出張で訪れていた際に、町の人から言われた言葉だそうだ。

国主導の開拓の歴史が、やってもらうという感覚を大きくさせたのかもしれない。

魅力や価値にあふれた北海道で、インフラ整備などばかりやらなくても勝てると、当時考えたのだという。

 

それでも、町の予算だけではまちづくりを進めるのは難しい。

国から地方への地方創生予算が、ただ配分するのではなく、申請などを基に審査を行って配分先や金額を決定する獲得型になっているのだから、予算獲得を目指して、それを基にプロジェクトや政策を行っていくべきだと語った。

 

 

齋藤町長の話は、直視したくない現実なのかもしれない。

あまり、聞こえのいい話ではないだろう。

だが、これからの社会を乗り越えるためには、それを受け入れて戦略を考えていく必要があるのだ。

 

HOPSに在籍していると、天塩町時代の齋藤町長の話はよく聞く話題だ。

どんな人物なのだろうかと楽しみにしていたが、想像以上に面白い人物であると感じた。

果たして今後の町長の行動、そして余市町の将来はどうなるのか。

それを見届けることができれば、嬉しい。

 

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HOPS公式FaceBookより

 

 

役場を出る頃には、降り続いていた雨も止んでいた。

余市町という小さな町でも、世界とは無関係ではいられないのである。

そのことを痛感させられた。

 

また、個人的にも気づきはあった。

もっと勉強しなくては。

そんな当たり前のことに改めて気がつかされたのである。

 

余市でのエクスカーションは、教室にいては学べないグローカルの現実に触れることができる良い機会であった。

北大の公共政策大学院は、他の公共政策もとい全ての大学院と比べても、現地調査などのフィールドワークが多いという特色がある。

地域政策、グローカルというトピックに向き合う以上、地に足をつけて現場を見るという場は非常に大切だ。

 

他では学ぶことのできない学びがある。

それがHOPSなのではないかと、バスの車内で思いに耽った。

 

 

文責:14期 和泉優大