HTB藤村忠寿氏の講演会報告
「水曜どうでしょう」
かつて北海道のローカルテレビ局HTBで放映されていた深夜番組だ。
出演者はタレントで芸能事務所社長(現会長)の鈴井貴之、
そして大学生だった大泉洋である。
わずか30分、放送期間も未定の小さな番組だったこの番組は、今や日本各地で再放送され、北海道民のみならず日本中に熱狂的なファンを抱える伝説のテレビ番組となった。
この番組を制作した2人のディレクターが、主にカメラ担当の嬉野雅道氏、そしてチーフディレクターの藤村忠寿氏。
水曜どうでしょう内では、タレントだけでなくディレクターとの絡みが多く、藤村Dと大泉の口喧嘩が絶えない。
藤村氏の大きな笑い声が、画面の見えない部分から響き続ける。
だが、それが面白いのだ。
他のテレビ番組にはないゆるさ、タレントを追い込む企画、ぼやき続ける大泉洋、時々奇行に走る鈴井貴之、少ない発言が光る嬉野氏、藤村氏のデカイ声…
多くの魅力が詰まったこの番組は、4人のタイプの違う人間が作り出した作品なのかもしれない。
この番組を制作している藤村氏は、実は北海道大学法学部の卒業生なのだ。
しかも、HOPS現院長の遠藤乾教授と同期入学なのである。
多忙な藤村氏であるが、様々な方々のご尽力もあり、HOPSと藤村Dのコラボ講演が実現した。
その様子を伝えたい。
「北海道どうでしょう?」
日時:7月2日18:00~21:00
場所:北海道大学総合博物館 知の交流エリア
登壇者:藤村忠寿氏、寺田英司(HOPS客員教授)、近藤一郎(HOPS社会人学生)
司会:池直美(HOPS専任講師)
参加者:学生約70人
まずは自己紹介から始まる。
藤村氏、マイクはいらないと言ったかと思うと大声で話し始めた。
後ろまで通る、デカイ声である。
北大時代はラグビー部だった藤村氏、
地元の愛知県から北大に来た理由、北大での生活、HTBへの入社などを語る。
札幌が一番の町、だって寒いからと語る。
そんな藤村氏だが、道民の印象は保護動物だという。
開拓精神がなく、自分たちでやろうという気持ちがないから、何色にも染められるというのだ。
そういう背景があるからこそ、北海道で水曜どうでしょうという番組が成功したのである。
登壇者の近藤さん、寺田先生から質問をするという形で、講演会は続いた。
ネットフリックスやyoutubeといった新しいメディアへの印象、最近の若者へのメッセージ、組織とは何かなど多岐に渡る。
どの質問に対しても、独特の藤村節が炸裂する。
すると会場の学生たちは大笑いするのだ。
ここまで賑やかな大学の催し物というのは、見たことがない。
実際、自分も大学の催し物で、周りを気にする事なく、大笑いした講演会はこれが初めてだった。
だが、どの意見も藤村氏の率直な考えで、頷かされることも多い。
藤村氏によれば、会社のように組織に入ることは必然であるという。
仕事は、20代のうちは我慢だそうだ。
それを乗り越えてから、仕事が面白くなると話した。
やりたいことがあれば企業しろ、最近ではそのような言説が支持を得ているが、流行に流されない本質的な答えなのかもしれない。
休み時間を挟み、後半戦に突入。
寺田先生の会社で製造したジン、近藤さんが紹介したノンアルコール飲料などが試飲として振舞われた。
途中で、参加者の学生が
「ぜひ藤村さんに食べて欲しくて」
と、持参した鹿肉のローストを手に、登壇者の机に駆け寄った。
「絶品だよ、これぇ!!!!」
私も頂いたが、かなりガツンとくる、とろけるような食感で、最高の味だった。
参加者も会を盛り上げる、そんな講演会は見たことが少ない。
後半は、参加している学生から自由に質問を受け付けるという形式。
正直でいるためには、ポリティカルコレクトネスについてどう思うか、4人でずっとどうでしょうを作り続けるコツは、子供の教育にはどんな番組を見せたらいいか。
様々な質問が飛ぶ。
それに対して、明快に答えていくのだから、面白い。
他の講演会では聞かないような答えばかりだ。
子供の教育には、ダメなおっさんの映像を見せろ!!などと答えた時には会場は笑いの渦に包まれた。
講演を通して、藤村氏が強調していたのは、
「正直でいること」
であった。
意見の差異からこそ、面白さが生まれる。
意見が違うなら否定はダメだが、ぶつけ合うことが大事なのだということを、強く感じた。
藤村氏は、大学は桃源郷のような場所だという。
大学でこそ、社会では言えないようなことを率直にぶつけ合って、人類の発展に資する新しい発見を生む場所であるべきだと主張した。
「地方創生で魅力をアピールするには?と君は言うけど、生まれ故郷が魅力的なのは当然なんだよ。それなのに、生まれ故郷としての魅力と観光をつなげる。それは、嘘なんだよ!」
地方創生のために動画などで魅力をアピールするにはどうすべきか。
そう質問した自分に返ってきた答えだ。
様々な町が、地方創生の一環として、自分の町をアピールしている。
だが、正直に言えば、無理なアピールに感じる取り組みも、ないとは言えない。
地域振興を盲目的に振興する危険性を改めて気が付かされた。
町を閉じるのなら正直にそう言えばいい。
魅力がないなら、それを受け入れればいい。
きっとそこから、新しいまちづくりも始まるはずだ。
大学だけでなく、社会においても正直でいることは、本当に大事なのだろう。
政策であっても、本当の現状を把握することが、大前提と言えるはずだ。
私は過度に正直過ぎるのは、時に人を傷つけることもあると思うが、正直に話せる場が少ないのは実感する。
正直でいられない、そんな空気感がアメリカや欧州でポピュリズムの支持につながっている面もあるのではないだろうか。
お前は俺と違う、だがそれで良い。
これこそが、真の多様な価値観を大切にする社会なのだ。
そう、学部4年のときに官僚に食って掛かったことを思い出させられた。
「20代の若者こそ、正直にぶつかり合ってほしい」
会の後で、藤村氏の口から出た言葉だ。
社会に出たら、正直でい続けることは難しいことは、容易に想像がつく。
ある飲み会の場と、翌週のゼミで普段はぶつけない率直な思いをぶつけてみた。
衝突した面もあったが、不思議とお互いスッキリして、議論も発展した。
残り少ない学生生活、正直でいよう。
水曜どうでしょうだけでなく、それを作った人物から、そう学ぶことができたのかもしれない。
最高の、講演会だった。
文責:14期 和泉優大